天部(てんぶ)は、もともとインドの神様で、仏教の守り神として取り入れられました。本尊というより、どちらかというと如来や菩薩を盛り立てる「名脇役」という感じ。姿かたちは、怒った顔あり、女神あり、穏やかな顔あり、とバラエティー豊かです。
四天王
持国天・増長天・広目天・多聞天を合わせて四天王といいます。天部のなかでも、いちばん守り神らしい守り神です。どれも、よろいを着て怒った顔をしていて、邪鬼という小さな鬼を踏んでいるのが基本パターン。本尊がまつられている祭壇の四隅に立っていたりします。まさに「守り神」。
多聞天は別名毘沙門天で、この名前のほうがピンときますね。単体でまつられたり、七福神のメンバーのときは毘沙門天、四天王の一員のときは多聞天と呼ばれます。また、持国天・増長天を「二天」と呼ぶこともあって、仁王さまのように門の両脇を守っていたりします。どちらかが多聞天になるパターンもあるようです。
奈良には、四天王の傑作がたくさん。中でも最高傑作といわれるのが、東大寺戒壇院の国宝の四天王。東大寺には、他に三月堂(法華堂)にも国宝の四天王、大仏殿には大仏さまの両後ろに広目天と多聞天がまつられています。興福寺には、北円堂・南円堂・東金堂と、なんと3セットも国宝の四天王があります。ただ、いつでも見られるのは東金堂だけ。
弁才天(弁財天)
「弁天さま」として有名な、七福神の紅一点。もともとはインドの川の神様で、川の流れる音がきれいなことから、音楽や芸能の神様になったとか。お寺で池の中島にまつられることが多いのも、その名残です。もともとは「弁才天」と書きますが、いつごろからか財宝の神様になって、「弁財天」と書くようになったようです。
四天王とはうって変わって、優しげな女神様の姿。腕が2本と8本の2パターンあって、2本の場合はたいてい琵琶を弾いていて、8本の場合は刀や弓矢などいろいろなものを持っています。腕が2本の弁天さまは、いかにも「女神」という優しい感じですが、8本のほうは、グロテスクな感じがして、なんか怖いですね。
東大寺ミュージアムでは、もともと三月堂(法華堂)にあった弁才天を見られます。あまり保存状態はよくないものの、日本最古の弁才天だとか。腕が6本というめずらしいパターンですが、女神さまっぽさはあります。興福寺の隠れた国宝建築・三重塔にも弁才天がまつられていて、こちらは腕8本の仏様らしい弁才天。年1回だけの公開です。
十二神将
仏様の中でも、薬師如来限定でいっしょにまつられる「薬師如来専属ガードマン」。その名の通り12体1セットで、薬師如来を盛りたてている感じです。ガードマンらしく、四天王と同じく武装しておっかない顔をしています。「12」だけに、1つ1つが十二支に対応しているとか。
特に有名なのが、新薬師寺の十二神将。12体中11体が奈良時代から残る国宝です。ポスターなどでもよく見かけるし、そのうちの「伐折羅(ばさら)大将」は、500円切手のデザインにもなっています。本尊の薬師如来をぐるっと取り囲んでいて、今にも動き出しそうなリアルで迫力ある仏像です。興福寺の東金堂にも、本尊の薬師如来の両隣りに並んでいて、これも国宝。
梵天(ぼんてん)・帝釈天(たいしゃくてん)
あまり聞きなれないかもしれませんが、インドの神様の中ではトップクラスで、天部の中でも最上位とされています。お釈迦さまが生きているときから、仏教を広めるのに協力したとか。天部にしては上品で穏やかな顔をしていて、いかにも最上位という感じ。たいてい2体セットでまつられます。
東大寺ミュージアムでは、奈良時代に作られた国宝の梵天・帝釈天を見られます。持ち物も装身具もないとてもシンプルな姿で、昔の中国の貴族をイメージさせる、「人間味」のある仏像です。興福寺では、国宝館で鎌倉時代に作られた重要文化財の梵天・帝釈天を見られます。こちらはうって変わって仏像らしい仏像。